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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)2250号 判決 1968年10月29日

原告 松林章夫

右訴訟代理人弁護士 酒巻弥三郎

同 植松宏嘉

同 青木一男

被告 東栄建設こと 西園武久

主文

被告は原告に対し金参拾万円およびこれに対する昭和四拾弐年参月四日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払うべし

訴訟費用は被告の負担とす

この判決は仮に執行することを得

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「一、原告は昭和四一年一〇月一五日ごろ東栄建設の名称で不動産取引業を営む被告との間に、東京都練馬区桜台六丁目二八の二三所在宅地九六・三五平方米および同地上建在の木造二階建居宅一棟につきつぎの内容の売買契約を締結した。

(一)  売主 被告

(二)  買主 原告

(三)  代金 三百万円

(四)  手附金 十五万円

(五)  代金支払および所有権移転登記の期日 昭和四一年一一月三日

二、右契約に基づき原告は昭和四一年一〇月一五日ごろ被告に対し手附金十五万円を支払った。

被告は前記期日に所有権移転登記をせず期日を昭和四一年一二月二三日まで延期するよう求めてきたので原告はこれを承諾したが被告は右期日にも所有権移転登記をしなかった。そして後日判明したところによれば本件売買の目的物件は被告に売却の権限のない他人所有の物件であった。本件売買契約は被告の責めに帰すべき事由により履行不能になったものである。

三、ところで原告が被告に支払った手附金十五万円は解約手附であると同時に売主の不履行のときは手附倍返しの趣旨で交付した違約手附である。

よって原告は被告に対し右違約手附の趣旨に従い三十万円およびこれに対する本件支払命令送達の日の翌日である昭和四二年三月四日以降完済に至るまで、本件契約は被告の商行為であるから、年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」旨陳述した。<証拠省略>

被告は適式の呼出を受けて本件口頭弁論期日に出頭しないがその提出にかかる答弁書の要旨は、「原告の請求を棄却するとの判決を求める。原告の主張する土地建物の売買契約は原告と訴外唐樋啓輔との間に締結されたものであって被告には売主としての何等の責任もない。」というに在る。

理由

<証拠>を綜合すれば原告主張の請求原因はすべてこれを肯認することができる。尤も、甲第一号証の売買契約書のうち第四条の手附倍返しの約定を記載した部分は抹消されているけれども、証人松林清子の証言によれば同号証は原被告間の本件売買契約について最初に作成されたものではなく本件手附金の授受のあった時に作成された契約書は甲第一号証の用紙と同一用紙で且つそれには第四条の記載は抹消されずにあった事実を認めることができるので本件手附金の授受のなされた時においては本件手附金は売主不履行の時には倍返しの趣旨を含めた所謂違約手附であったと認められる。而して前記証人の証言によれば甲第一号証は右の契約書を書換えたものであるがその際第四条の記載を抹消することについて被告側からは格別の説明もなく単に不必要なものだとの話があったのみで原告としては売主不履行の際の倍返しの約定を取やめる意思のなかった事実を認めることができるので右の書換により手附倍返しの約定が廃棄されたとは認め難く右約定はそのままであると認められる。而して原告の請求原因によれば原告の本訴請求はその理由があるのでこれを認容する。<以下省略>。

(裁判官 中田早苗)

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